数日後、社長よりも先に送迎中の車の中で、釜戸さんに旅にでることに決めたことを報告した。

「そうか、ここの仕事は辞めるのか?」そう質問した釜戸さんに

「そのつもりです」と答えた。

「さみしくなるな、いつ出発するか決めているのか?」

そう言う割には寂しさの顔ではなく、釜戸さんの顔には笑みを浮かべていた。

「まだ会社に報告してませんが4月には辞めるつもりです、丁度桜の時期なので新しい生き方をするには丁度いいかと」

釣られて笑いながらそう答え、家まで送っていった。

 

それから、送迎中にはキャンプ用品の良し悪し、長年の経験から学んだ必要な物、失敗談やトラブル回避法。

釜戸さんの経験してきた、あらゆるノウハウを学んだ。

会社にはまだ退職することは伝えてなかった。

万年人手不足の介護業界は離職率も高く、それはうちの会社も同じことだった。

早くに退職することを言うと職場の空気が悪くなる可能性があった、だからあえてギリギリまで辞めることを伝えてなかった。

そんなわけで、釜戸さんとは送迎中の2人きりの状態でしかキャンプの話をすることは出来なかった。

2人だけの秘密だった。

 

そして4月が近づいた頃にやっと、1ヶ月前に会社にも退職する有無を報告。

自分が職場で唯一の男手ということで引き止められはしたが、考えは変らないことを言うと意外とあっさり会社は認めてくれた。

 

それからは仕事をしつつ関連本を読み漁り、釜戸さんの話を参考にアウトドアショップに行ったりと下準備やシュミレーションをしていた。

だが退職日も近づいたころ、キャンプ用品も本格的に揃えようと思った矢先に悲劇が起きた。