「バイクがない!!」

仕事に行くために、家の車庫に止まっているはずの愛車のゼファーがどこにもない。

呆然としながら1~2分考え、盗まれたことに気づいた。

「盗まれた・・・」

思わず口に出してしまう。

「とりあえず警察を呼び、会社に電話して・・・」

 

大切に乗っていたゼファー1100は、バイクをおりた父親から譲ってもらったバイクだった。

交通の便に乏しいこの町では車かバイクが必需品なうえ、自分にとってのバイクはイライラしたときに走るとスッキリする、ストレス解消法でもあった。

なにより小さい頃に父の後ろに乗せてもらい、どこでも連れてってもらった思い出のバイクが盗まれたことがショックだった。

 

同じバイクだったら良いというわけではないが新しくゼファーを買おうにも、昔は安かったゼファーだが生産終了した当たりから中古価格が跳ね上がり、すでに手が出せない価格になっていた。

 

 

 

警察が来てからの手続き中、多分無理だと思いつつも質問せずにはいられず、景観にうなだれた声で質問してみた。

「ゼファーが返ってくる可能性はどれくらいありますか・・・?」

すると警官は苦い顔をしながら言葉を選ぶように答えてくれた。

「もし盗んだのが少年なら戻ってくる可能性もありますが、バイクは厳重に保管されてたようなので犯人はプロの窃盗犯である可能性が高いです」

最後まで言われなくてもこの時点で警官の言いたいことは分かっていたが、警官は続けて

「返ってこない可能性の方が高いですね・・・」

と申し訳なさそうに言った。

 

 

バイクの窃盗団のプロにもなれば、数分足らずで現場からバイクを持っていかれ、その後はバラバラに分解され売れることが多い。

たまに盗まれたバイクのパーツをネットオークションで見つける人もいるが、実際にはすごく稀。

 

こうして新しい相棒(バイク)を買うために、会社を退職するのが少し伸びてしまった。