バイクが盗まれた頃はすでに会社含はもちろん、デイサービスの利用者にも最後の挨拶もすませ済みだった。

元々貯金はする方だったが、さすがに無職で新しいバイクを買うとなると貯金もなくなりキャンプどころではなくなる。

どこか違うところで短期間働こうかとも考えたが、すぐ辞めること前提で入るのは失礼だし、なにより雇われるまで時間がかかる。

 

そこで会社にダメ元で事情を説明し、もう数ヶ月働けないかお願いしてみることにした。

 

 

「今はシフトも薄いことがあるし、もう少し居てくれるのならうちは大歓迎ですよ」

デイサービスの経営者、山田さんが優しくうなずいてくれる。

これで出発が春の予定だったが、3ヶ月だけ働くことになり、出発は夏に延期することにした。

 

しかし経営者は快くOKしてくれたが、事情を知った会社のスタッフや利用者からは揶揄われる羽目になってしまった。

スタッフと利用者からは「お帰り井上君」と笑われ、普段デイサービスでは笑わない釜戸さんまでもが「短い旅だったな」と揶揄ってきた。

デイサービスのスタッフは、利用者を笑顔にすることも仕事だと言われていたので、これはこれで皆を笑顔にするいいネタになったが、それでも恥ずかしかった。

笑いながら「ただいま」と返すのが精いっぱいだった。